1人の術者の年間手技数シミュレーション
模擬シミュレーション
水晶体における1症例平均(n=300)の線量とします。
:防護メガネ未装着時 0.220 mSv
:防護メガネ装着時 0.090 mSv
:防護メガネと防護板 0.052 mSv
↓
法令内で可能な検査数
旧法令 150mSv/年
未装着時 682 例(線量限度150mSv/1症例平均の線量値0.220mSv)
防護メガネ装着時 1667 例(150mSv/0.090mSv)
新線量限度 20mSv/年
防護メガネ未装着時 91 例
防護メガネ装着時 223 例
防護メガネと防護板装着 385 例
となります。
月に8件カテに入る医師がいると、防護眼鏡を未装着の場合、法令で定められた線量を超えてしまいますね。
施設で算出して医師と協議するとよいでしょう。
また、どうしても対応が難しかったりした場合、装置の更新をチャンスと捉えてもよいです。
装置やソフトウェアの発展に伴い、術者の一例あたりの平均水晶体等価線量は下がっており、実施可能な検査数は増えている。
坂本肇. 脳神経血管内治療における術者水晶体線量の実態調査 JNET 2014.8(6); 66.
加藤守, 他:脳神経血管および心臓電気生理手技のインターベンションに携わる医師の水晶体線量評価. 日放技学誌. 2020. 76(1):26-33.
その際はまた線量測定や、管理、シミュレーションをする必要があります。
防護の方法
→線量の測定を適切な対象者に実施すること。
→適切な被ばく防護策を講じることや適切な使用方法に係る教育を行う。
→眼の水晶体に関わる健康不安の申し出があった場合労使間で話し合って対応を検討すること
→眼の水晶体の等価線量の測定は放射線測定器を適切な位置に装着しているか確認すること。
が挙げられています。
各モダリティによって気をつける防護に関する各種報告と具体例を見ていきましょう。
CT検査
散乱体を中心として広がる。ただし、ガントリが遮蔽体となり、付近では線量が低下する→同じ距離でも位置を工夫して低減が可能
藤淵俊王 FBNews 404 2017, 6-10
つまり介助者頭部を装置躯体に近づけることで少し下がるということですね。
頭部CT検査時に患者を抑える→1回の検査で水晶体位置の被ばくが 600μSvと報告している。単純計算で、適切な防護なしで34回介助をすると20 mSvを上回る
藤淵俊王 FBNews 404 2017, 6-10
そして月3回でも抑えてる状態では20mSvが刻々と迫るであろうことがわかります。
CTの透視下においては以下が主だった対策です。
・専用防護版の設置
・適応の限定
・防護メガネの使用
CTの場合は状態が悪い患者も多く補助呼吸をしながらということもあるため被ばくは増加しがち。ただどのように減らすかというと以下のようにじゃばらを足すことも可能です。
1mと1.5mでも大きな差があり、呼吸補助が必要な場合などにおいてはデバイスを工夫することによって低減が可能→挿管のバルブ介助でじゃばらを使うなど
Mori et al, Health Physics 2014
その他には
・スキャン方法を工夫することによって低減可能(ただし画質とのトレードオフ)
→これについては診断の質を落とすことにつながりかねないため、入念なコンセンサスが必要です。
ちなみにBVMの延長についてですが、正しい場所(換気バッグ→延長チューブ→患者バルブ(一方弁))につけないといけません。誤ったパターン(換気バッグ→患者バルブ(一方弁)→延長チューブ)で行うと機械的死腔が増えるためよくないとされています。
死腔?ってなに?
換気成分のうちガス交換に関与しない部分。「呼気と吸気が同じ道を通る回路」。
死腔量が大きくなると、一回換気量がそれより小さい場合にはいくら人工呼吸をしても肺でガス交換ができない。(フォロワーの麻酔科の先生に教えていただきました!ありがとうございます!)
透視検査
・防護メガネの使用
・管球や散乱体
・拡大透視を減らす
・線量率はどれくらいで行うか
なども有効かと思います。
注意が必要なのが、
アンダーチューブよりもオーバーチューブのほうが患者からの散乱線が多い。
またX線管が術者の頭部の高さと同程度→放射線安全のために面積線量計を備えるとそこからの散乱線が増し、特に水晶体の被ばくにつながる可能性がある。
散乱線はほとんどが入射表面から発生がしますのでイメージして把握することが重要です。
高さ方向の散乱線量は、X線管にむかっていくほど高くなっていきます。
そのため少し距離をおくことで水晶体被ばく線量を下げることが可能です。
あとは防護具の活用です。
現在では鉛のカーテンも照射野ランプの側面に粘着テープを貼り、鉛だけのカーテンに穴を空けてリングなど通してかける方法があります。
手技中に患者さんの容体を見る必要もあるので、コンパクトにできるならこれ以上のことはないのかなと思います。
IVRでの防護
・防護眼鏡は一定の防護効果があり透視、DSA、CBCT時も同様
・一部(右目の外側)で、メガネの内側の方が線量が高い部位があり。
→防護効果がない可能性→メガネと顔との隙間があると散乱線が入射してしまうため。
・左右で線量差高い(左で1桁多い)
・メガネ(左の外側)と頸部バッジでは約1.1-1.6倍差(頸部が高い)
→透視では1.6倍, DSAやCBCTでは1.1倍
→付加フィルタが違う(実行エネルギーは透視が大きい)
線質の違いで測定した被ばく線量が異なる可能性
JSNET 2020 シンポジウム
・防護眼鏡だけでは6-8割の低減だったが、防護板との併用で約8-9割の低減率となる
・防護板を高い位置にもっていくことで、低い位置よりも約8-9割低減する
→散乱体からの上方散乱線の影響が考えられる
・防護板を術者に近い位置にもっていくことで、遠い位置よりも約7-8割低減する
→放射線が防護板を回り込むように散乱するため近接させる
・防護板を斜め(横長)にすることで、縦長よりも約8-9割低減する
→防護エプロン、L型プロテクタ、天吊り防護板の併用が望ましい。
JSNET 2020 シンポジウム
単施設報告として、患者被ばくはAVM>動脈瘤>血栓回収>腫瘍>CAS>診断の順に被ばくが多いとされます。
AVM/AVFは撮影回数、透視時間が多く、水晶体被ばくに特に注意が必要とされます。
その際は必ず防護メガネや防護板の使用を勧めましょう。
前述したように、ガチガチの遮蔽をしてしまうと手技がやりづらくなって結果的に着用しない、ということになると大幅に被ばく線量が増加します。
IVRでは装置で抑え込んで一番軽い防護眼鏡で対応した方がよいこともあるのでそのあたりは医師との相談が必須となります。
装置周辺の防護具もそれぞれ鉛の厚みも違うので一般的なところを記載します。
:天吊り式防護板1.5mmPb, 0.5mmPbL字エプロン, 0.5mmPbエプロン
診断検査やCAS、血栓回収など、広めのFoVを使用するものは、水晶体被ばくに注意が必要です。
(IVR手技の半分程度を占めている)
→散乱線の線量率は照射野が広くなるほど増加するとされています。(参考:IVR学会HP)
治療では局所の観察のため11×11cmが多いですが、診断では17×17が多くなります。
そうなると散乱線は1.5-2倍高くなります。
Hot spotの範囲は減少しますが術者は多く被ばくすることは忘れてはいけません。
またCBCTは特に線量が大きくなりがちです
→その際はできるだけ撮影室外に退避をするか防護板の後ろに回り込みましょう。
ですが遮蔽板も使い勝手が悪いと嫌われることも少なくありませんので
衝立遮蔽板と天吊り遮蔽板の併用事例を示します。
衝立は上から滅菌ポリ袋で覆うことで術者が移動調整可能にする(邪魔にならないようカテをある程度あげてから配置する)
遮蔽板は可能な限り患者寝台に近づけ、隙間を減らす
遮蔽板があることにより頸部線量と総空気カーマ値の相関は低くなる。
JSNET 2020 シンポジウム
検査(治療)手技ごとに撮影フレーム数と透視時間をそれぞれ総空気カーマ値と相関をとることで、より相関が強いほうが、最適化での影響を受けやすくなります。
自施設の線量決定の手順としてはわかりやすくなると考えます。
落とし穴になりがちなのが、被ばくを気にしすぎて画質が維持されないということです。
特に医師とのコミュニケートが希薄な場合陥りがちでしょう。
被ばくと画質を相互に評価する基準を施設で検討しなければいけません。
線量が高い装置(古い装置)でも遮蔽板の使用法を適正化したりすることで術者の水晶体被ばく低減が可能です(特にCアームの角度変更が少ない治療には有効)
また、これは副産物としてですが、空間線量を減らすことで他職種が作業する際の被ばく低減が期待されます。
撮影線量と水晶体被ばく線量は比例しない?
興味深い報告として
頭部IVRは心臓のIVRに比べて十分の患者線量が高いにもかかわらず
術者の水晶体線量は心臓のIVRのほうが高いという報告があります。(下記に引用記載)
また頸部バッジは心臓のIVRにおいて過小評価している人もいれば過大評価している人もいるが、
コメディカルは頸部バッジでの推定線量と水晶体測定の線量でよく相関しているとのことです。
ではなぜ循環器IVR術者の水晶体線量が多いのかですがJSNET 2020 シンポジウムで以下のように述べられています。
→ 防護眼鏡の着用率は100%だった。
→ メガネの遮蔽効果は6-7割と大差ない。
ここから導き出された結論として術者個人の防護意識が関連するとのこと
・IVR時の立ち位置
・天吊り防護板の活用
・造影剤注入器使用時の検査室からの退避
こうなると教育的な介入は不可欠となります。また、手技や余剰人員次第では、1人の医師に被ばくが集中してしまうことは避けられないため、装置自体による低減、着用する防護具以外での複合的活用、各防護手段の正しい活用法の習得、他モダリティ画像を用いた補助画像によるIVR時の撮影回数の削減、画質向上による透視時間の削減*などが求められるでしょう。
*線量を下げて総線量自体を一律に低減するか、線量をあげて見やすくすることで手技時間を早めて総透視時間を下げるかは、どちらが有効かについては影響する因子が多く、一概に決め切ることは難しい。現時点では知見が不足していると思われる。
Cardiac-IVRでは
→Lt.radial approachが多く、C-arm近傍での手技があるため防護板が使用できない
→撮影時は防護板も使用できる角度もある。PCI時はワーキングアングル次第で使用できる場合もあるが、診断カテ時は多方向撮影されるため防護板を使わない術者もいる
→防護板を使用できない角度もある。PCI時に防護板を使用できる角度に調整するかは、術者の放射線防護に対する意識の違いが現れる。特にBiplane時の防護板の使い方が難しい
Neuro-IVRでは
→大腿部アプローチなので散乱体から離れている
→手元に防護板を置きやすい(複雑な角度でも)
→撮影時は検査室から退避
→3DDSA後、ワーキングアングルはワークステーションでシミュレーションしC-Armを自動制御(透視不要)
加藤守, 他:脳神経血管および心臓電気生理手技のインターベンションに携わる医師の水晶体線量評価. 日放技学誌. 2020. 76(1):26-33.
水晶体被ばく低減のために
最後にまとめますが、世の中にはいい資料があるもので、引用します。
厚生労働省 第2回眼の水晶体の被ばく限度の見直し等に関する検討会 資料6より
水晶体被ばくを低減するとしたらやはり
防護の3原則である「距離 時間 遮蔽」は共通事項となります。よって
距離
・散乱体から離れる
・散乱線分布の把握
時間
・必要最小限の透視・撮影
遮蔽
・可能であれば撮影時は検査室から退避
・防護眼鏡、防護板、防護カーテンの活用
そして我々にしかできない「管理」という側面があります。
・個人線量計の正しい使い方と啓発
・防護用具の正しい使い方と啓発
・機器管理と最適化
・DRLs2020と比較したプロトコールの見直し
これらを意識して、自施設を再度見直すきっかけになればいいなと思います。
そしてくれぐれも忘れてはいけないことは、
被ばく管理は1人が頑張るのではなく、全員で取り組むことが重要です!
ここまで読んでくれた方はきっと頑張ってる方です。
少しでも参考になれば幸いです。
おしまい!(疲れた!笑)