水晶体被ばく まとめ

Angio

2021年4月に、水晶体の被ばく線量の職業被ばくの線量基準が引き下げられたのをご存知だろうか?

 

このあたりはなかなかとっつきにくいところではあるが、

時は放射線法令改正戦国時代(言い過ぎ)

 

ここでしっかり押さえておかねば

 

先輩なんも知らないんdeathねww ブフォww

(こんなんわかんないですよね!飲みましょ!スーパドゥラァァァァイイイイイ!)

こんな事態になりかねない。

 

 

全容についてまとめたので参考になれば幸いである。

 

本内容は各種学会・講習会等の内容に関するメモ書きをまとめたものを中心としている。

 

特別監修:眼科医の「ドクターK」先生に放射線白内障の項内

「眼の水晶体構造」「放射線白内障とは」

の内容について監修いただきました!ありがとうございます!
ドクターK先生が運営されている眼科情報がたっぷり詰まったサイトはこちら!「オンライン眼科

 

 

 

電離則の改正の概要

電離則(電離放射線障害防止規則)は労働安全衛生法に含まれる。

電離則の一部を改正する省令の公示内容は以下である。

 

令和3年4月1日施行

 

眼の水晶体等価線量を引き下げ

→1年間につき50ミリシーベルト

→5年間につき100ミリシーベルト

 

線量の測定方法の一部変更

→Hp(10-1cm線量当量),Hp(3-3mm線量当量),Hp(0.07-70マイクロm線量当量)のうち、放射線の種類、エネルギーに応じて適切と認められるものについて行う(今までは1cmと70μのどちらかで評価)

 

線量測定結果

→3月毎、1年毎、5年毎の合計を算定・記録

(5年集計は実効線量の5年管理と一緒で毎年集計ではなく5年管理)

 

猶予期間

2021年4月1日〜2023年3月31日の間1年間につき50mSv

2023年4月1日~2026年3月31日の3年間につき、60mSvおよび1年間につき50mSv

*高度の専門的な知識経験を必要とし、かつ後任者を容易に得ることができない者

 

改正電離則(令和2年厚生労働省令第82号)[PDF形式:644KB]

 

 

放射線と白内障

まずは放射線と白内障の関係についておさらいをしましょう。

 

眼の水晶体構造

上皮細胞は生涯増殖を続け、水晶体内部に留まるという特徴を有する。

赤道部(germinal zone)で分裂し、中央に向かって上皮細胞が増殖していくことで機能を保っている。そして水晶体は放射線感受性が非常に高いことが知られている。

 

放射線白内障とは

放射線は分裂している細胞に障害を与えやすいので、赤道部(germinal zone)での細胞は極めて分裂能が高いためここから障害される。(水晶体自体の放射線感受性も中程度の位置付け)

 

引用:臓器・組織の放射線感受性 環境省

 

水晶体上皮細胞が放射線の被ばくを受けることにより、細胞内にフリーラジカルが産生され、DNAに損傷をきたす。

そして水晶体タンパクの構造変化をきたし、 水晶体上皮細胞および有核の水晶体線維が変性する。

障害された変性細胞は後ろの方に集まることが知られ(理由は不明)光の直進を妨げる(濁り)

(後嚢下白内障の初期変化として、後嚢下にVacuolesおよび顆粒状物質を認めることが多い。)

参考:原爆放射線の人体影響、分光堂、2012

参考:佐々木洋 眼の放射線障害の機序と実態 第4回目の水晶体の被ばく限度の見直し等に関する検討会「眼の放射線障害の機序と実態」資料

 

 

放射線白内障は後嚢下(水晶体後極部)にドーナツ型に起こるとされるが、以下が実際の写真です。

引用:ICRP Pub85,(2000) p4より抜粋

 

厚生労働省の第4回 眼の水晶体の被ばく限度の見直し等に関する検討会 にて下記のようにまとめられている。(平成31年4月17日)

・放射線白内障には微小混濁として、顆粒状混濁(dot)、vacuolesがあるが、視機能への影響はほとんどない

・視覚障害性白内障としては後嚢下白内障が特徴的。皮質白内障、watercleftsも放射線被ばくにより発症する可能性がある

・医療従事者は後嚢下白内障発症のリスクが高い可能性がある

・微小混濁が視覚障害性白内障に進行する過程は不明であり、長期的な調査により明らかにする必要がある。

引用:佐々木洋 眼の放射線障害の機序と実態 第4回目の水晶体の被ばく限度の見直し等に関する検討会「眼の放射線障害の機序と実態」資料

 

 

具体的な診断基準としては以下です。

引用:佐々木洋 眼の放射線障害の機序と実態 第4回目の水晶体の被ばく限度の見直し等に関する検討会「眼の放射線障害の機序と実態」資料3p

 

 

(厚生労働省の資料は誰でもアクセスできるので一度閲覧されることをオススメします)

 

放射線白内障発症の位置付けと変遷

通常(加齢性白内障)は周辺から混濁していくことが知られています。

 

白内障は身体的影響のうち晩発性障害として位置付けられます。

参考:環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成26年度版)」 第1章 放射線の基礎知識と健康影響

 

そもそもICRP Pub 41(1984)ではしきい値8Gyとしていました。(これは改正された)

呼び方としてもICRP Publ.103(2007)にて「確定的影響」から→「組織反応」とするに至りました。

 

 

 

I C R P ?

 

国際放射線防護委員会(ICRP)

放射線防護の基本的な枠組みと防護基準を勧告することを目的とする。主委員会と5つの専門委員会(放射線影響、線量概念、医療被ばくに対する防護、勧告の適用、環境の放射線防護)で構成されている。

ICRP が勧告を発表すると、多くの国では放射線防護関係の法令の見直しが行われます。

環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成27年度版)」 第4章 防護の考え方資料

 

 

組織反応?

 

これには呼び方に変遷があり、どの世代で教育を受けたかでピンとくるところが違うでしょう。

非確率的影響 Non-stochastic effects

1960 年代後半に「確率的影響」が認知され,しきい値はないとした方が合理的であると考えられるようになった。この時,しきい線量のある従来からの影響を 「非確率的影響」と呼んだ(1977 年勧告,刊行物 26)。

 

確定的影響 Deterministic effects

1990年勧告(刊行物60)で変わり、最初に起こった事象(被ばく線量)で最終の結果(健康影響)が決まるという意味で使用され始めた。

 

組織反応 Tissue reactions

2007 年勧告(刊行物 103)から。放射線の身体的影響の出方は体内の物質や体外から投与する薬剤などで修飾されることが明らかになり,「確定的影響」という呼び名はふさわしくないとされた。

参考:日本原子力学会誌,Vol.58,No.11 (2016)

 

 

 

ソウル声明2011(組織反応に関するICRP声明)によってしきい値(吸収線量)が8→0.5Gyに変更されました。

定められた5年間の平均で20mSv/年、かついずれの一年に関しても50mSvを超えないことを勧告されたのです。

*全ての被ばくカテゴリーに防護の最適化が適用、特に、水晶体、心臓、脳血管系に防護が最適化されるべきとされている。

 

今までは白内障しきい値8Gyは

7500mSv(キリよくするためにこの数値)/50年(仮にこのくらい働くとして)=150mSv/年(術者の年間線量)

で計算されてきました。

 

ソウル声明の翌年にICRP Pub 118(2012)が出て

しきい値:0.5Gy  20mSv/年としましょう となりだいぶ下がったのです。

 

 

 

どうして下がったの?

参考:JSNET2020 シンポジウムより

→ 新しい眼科検査評価方法が開発され、白内障の検出率が向上した。

→ 疫学的な評価方法が向上した。

→ 放射線白内障の定義は原爆被害者によるデータが基になっている。以前は被ばく後2-3年で発症するとされていた。しかし最近の知見で潜伏期間が30年以上あることが判明した。

1Svあたりのオッズ比 13歳以下で被爆した原爆被爆者の皮質白内障や後嚢下白内障が高くなっている Minamoto A, et al. IntJ RadiatBiol. 2004; 80: 339-345.

 

→ 放射線の遷延性の影響として加齢性白内障(皮質白内障)の増加が起こることが判明し、再評価となった。

→ 水晶体に対する放射線影響の新たな生物学的事実の発見があった。(水晶体の白濁は白内障へと進行する)

 

 

白内障と白濁の関係

ICRP Pub41(1984) では水晶体の白濁と白内障は別とされてきました。

従来のしきい線量

白濁(視力に影響なし) 急性被ばく0.5-2.0Gy, 分割被ばく5Gy, 慢性被ばく0.1Gy/年

白内障(視力に影響あり) 急性被ばく5Gy, 分割被ばく>8Gy, 慢性被ばく0.15Gy/年 作業者150mSv/年

(Gy表示だがSvと考えても差し支えない)

 

→これはICRP Pub 103(2007年勧告)でも引き継いでいます。

→低LET・高LET放射線の疫学的知見(比較的短期間の追跡結果)

 

ICRP Pub118(2012)

全ての白濁が視覚障害性白内障へ進行するという仮定のもと、視覚障害性白内障のしきい線量だけが提示されました。

*ここに、「生物影響は、急性被ばく、多分割・遷延被ばく、慢性被ばくで同じ」「全ての微小混濁が被ばく後>20年で視覚障害性白内障に進行」という2つの仮定が存在するのだが、それら自体は今後も検証が必要

今般のしきい線量

白内障(白濁を含める) 急性被ばく0.5Gy, 分割被ばく0.5Gy, 慢性被ばく0.5Gy/年 作業者20mSv/年

 

 

新しいしきい線量の根拠

(浜田信行 第1回放射線審議会 眼の水晶体の放射線防護検討会 配付資料と同様)

 

・急性被ばくのしきい線量0.5Gy

原爆被ばく者における被ばく後55-57年の白内障(有病率):後嚢下白内障と皮質白内障が有意に増加

Minamoto et al. Int J Radiat Biol 80 (2004) 339-345.

 

 

原爆被ばく者における被ばく後55-57年の白内障手術(有病率):白内障手術が有意に増加

Neriishi et al. Radiat Res 168 (2007) 404-408.

 

・分割・遷延被ばくのしきい線量<0.5Gy

チェルノブイリ事故清掃員における被ばく後12-14年の白内障(有病率):後嚢下白内障と皮質白内障が有意に増加 しきい線量0.34-0.5Gy(中央値が0.5を超えていない)Worgul et al. Radiat Res 167 (2007) 233-243.

 

慢性被ばく:不明(上記を参考に0.5よりは高くないだろうとしている)

 

 

ちなみにこれら原爆被害者に対する調査というのは非常に重要で

現在の放射線防護の基礎となるヒトの健康障害評価方法は,主に広島・長崎での原爆被爆者の疫学的調査から得られたデータを基礎としています。

 

この研究調査は原爆被爆者寿命調査 (Life Span Study: LSS)と呼ばれており,約9万4000人の被爆者と約2万7000人の非被爆者から生涯による調査が今なお行われています。

 

これからの考え方

長年の年(慢性)線量率(Gy/年) 慢性被ばく:職業被ばくとして考える

 

 

潜伏期間は2-3年後だったのが→6ヶ月~35年となってしきい値が下がってきました。

低LET放射線の疫学的知見に基づいて影響の発現時期を20年とします。

 

約0.5(ソウル声明2011での値)を年期間で割る

→ 0.5Gy÷20年=25mGy/年(このあたりから年間20mSvがきているのではないか)

 

今までは作業期間を50年としていたため 8Gy(古いしきい値)÷50年=160mGy/年(ICRP Pub.60)

→これをまるめて150mGy/年

 

作業期間から影響発現時期へと考え方が変わるわけですね。

 

これに作業期間の考え方を入れるとどうなるでしょうか。

20mSv/年×50年で計算すると、生涯線量1Svとなります。

しきい値とは「被ばく集団の1%に影響が生じる値」ですから、しきい値が0.5Svである時に生涯線量が1Svとなりますと、視覚障害性白内障が2%ということになってしまうので防護の最適化が必要です。

 

つまり

線量限度として今までは「生涯線量<しきい線量 150mSv/年を守っていれば生涯線量がしきい線量を超えない」よう担保されていました。

ですがこれからは「>2%/1Sv(生涯線量>しきい線量)+最適化」 ソウル声明で2%となり、最適化を併用することが必要条件ということになります。

 

 

そして今までは 微小混濁は必ずしも視覚障害性白内障に進行しないとして、しきい線量を視覚障害性白内障と微小混濁に分けて勧告していましたが

これからは(2012) 微小混濁が視覚障害性白内障に進行するとしてしきい線量をわけずに勧告 となるわけです。

 

これらから、あくまで微小混濁から白内障への移行が問題となりますのでしきい線量の意味合いも、従来では「被ばく集団の1%に視覚障害性白内障が生じる線量」でしたが、「被ばく後>20年以降に被ばく集団の1%に視覚障害性白内障が生じる線量」と時間経過の考えが入ってきました。

 

繰り返しとなりますがICRP Pub118(2012)で急性・分割・慢性を全て同じ値にしたことも従来と異なります。従来は線量率効果を見込んで分けていましたが、この効果がないということになります。

 

 

なお、水晶体線量限度の改正自体はこれで終わりというわけではないので注意が必要です。

 

ICRPでは水晶体線量限度の変遷があり、1954年から現在(2021)まで水晶体線量限度を放射線作業者に対して8回(ソウル声明含む)、公衆に対して6回改訂してきた

Hamada, Fujimichi. J Radiat Res 55 (2014) 629-640.

 

 

 

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