生殖医療

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現在は生殖医療にとって、多様な選択肢がある時代である。

芸能人や国会議員をはじめ、「代理母」などについても目にする機会が増えている。

海堂 尊を著者とした「マドンナ・ヴェルデ」も代理母を描いた作品であり、多くの人が考えるきっかけになり得ただろう。

少し話題にあがったため、生殖医療を歴史とともにまとめてみる。

 

生殖医療の始まり

そもそも生殖医療の代表である人工受精技術は、2010年にロバート・エドワーズ英ケンブリッジ大名誉教授がノーベル医学生理学賞を受賞した理由の一つである。

人工授精は人間の歴史に手を加えた瞬間であるともとれる。

1978年に生まれた世界初の体外受精児ルイーズ・ブラウンさんは今では結婚し子供も授かっている。

当時は「試験管ベビー」として周囲を席巻した。

 

その際、バチカンにとっては、受精卵は人間であるという考えなのでノーベル賞に不快感を表した。

*不妊治療時に余った受精卵が捨てられる問題がある→人間を捨てることになるということである。

 

生殖技術の発展・拡大

日本で夫婦5.5組に1組が不妊症の治療や検査を受けていると言われる
(2015年、国立社会保障・人口問 題研究所調べ)

*不妊とは、避妊しないで結婚生活を送り、1年間妊娠しない状態 をいう。
(WHO, 日産婦)

 

なぜ1年間なのか → 従来はもっと長かったが、昨今の晩婚化から、子供ができない期間が長くなるのと同時に高齢となり、且つお金の申請や助成にも時間がかかるため、更に妊娠年齢も先延ばしになる。そのため、出産が遅れ高年齢化しリスクが上がっていく。

 

以下に2015年のものだが、内閣府で公表している生殖医療の内訳を示す。

種類 概要
一般不妊治療(保険適用) 1、排卵誘発剤などの薬物療法
2、卵管疎通障害に対する卵管通期法
3、精管機能障害に対する精管形成術
生殖補助医療 人工授精 静液を注入器を用いて直接子宮腔に注入し、妊娠を図る方法。精子提供者の種類によって、1配偶者人工授精(AIH)、2非配偶者間人工授精(AID)に分類。
体外受精(広義) 体外受精・胚移植(IVF-FT) 採卵により未受精卵を体外に取り出し、精子と共存させる(媒精)ことにより得られた受精卵を、数日培養後、子宮に移植する(胚移植)治療法。
凍結胚・融解移植 体外受精を行った際、得られた胚を凍らせてとっておき、その胚をとかして移植する手法。身体に負担のかかる採卵を避けながら、効率的に妊娠の機会を増やすことが可能。
顕微授精(ICSI) 体外受精では受精が起こらない男性不妊の治療のため、卵子の中に細い針を用いて、精子を1匹だけ人工的に入れる治療法。
代理懐胎 代理母 妻が卵巣と子宮を摘出したこと等により、妻の卵子が使用できずかつ、妻が妊娠できない場合に、夫の精子を妻以外の子宮に医学的な方法で注入して、妊娠・出産してもらい、その子どもを依頼者夫婦の子どもとすること。
借り腹 夫の精子と妻の卵子は使用できるが、子宮を摘出したこと等により、妻が妊娠できない場合に、夫の精子と妻の卵子を体外受精してできた受精卵を妻以外の女性の子宮に入れて、妊娠・出産してもらい、その子どもを依頼者夫婦の子どもとすること。
      内閣府ホームページ(2015)より一部改変

 

次に一般的な不妊治療の流れを示す。

こちらは「第1回 不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会 (厚労省資料 平成25年5月2日)」を一部わかりやすく改変している。

 

一般的に体外受精などの治療は1回で30-50万円とされており、1児あたりで約190万円かかるともいわれている。

費用のかさむ要因の一つに男性側に原因があると気づかずに女性だけが治療を続けるケースもあるためである。

人工授精(Artificial Insemination ) 

元は男性側の不妊原因に対する治療である。

高度の技術は不要とされており

安価である(1回数万円(保険外治療))妊娠率:約5~10%

 

AIH・・・配偶者間→子供は遺伝的に夫の子
(精子は夫からの提供)

AID・・・非配偶者間→遺伝的に夫の子供でない
(精子はドナーからの提供)

[最近はDI (Donor Insemination)と呼ぶことも]*「AID」の発音がエイズに似ているから。

 

日本のAID 事情

・慶応大学病院 AID実施を公表している唯一の病院。
これまで8000人以上のAID児が誕生。

・開業医によるものを含めると全体としては、これまでに3万人が誕生とも言われる。

・日本産婦人科学会では事実上現実を追認
[ただし、無精子症に限るという会告(1997)]*当初は反対していたが、現実に多くなってきていてフォローもしなければいけなくなった。

・顕微受精技術の普及により、 AIDは減少していると 言われるが、年間150-200人 のAID児が誕生。

・2018年 ドナー不足のため慶応大学病院で新規受け入れ停止
(2016:1952件、2017:1632件 2018: 1001件)

 

2019年に日本経済新聞にて「男性の不妊治療は増える傾向に」という記事が掲載された。

同記事の中では「女性の不妊治療の件数は横ばいだが、男性の治療は増えている」とのインタビューが載せられている。

政府も19年度から男性向けの不妊治療の助成金を女性と同じ水準まで拡充するという。

また最近では海外の精子バンクが日本に上陸したという記事もあるため、世の流れは法整備のスピードとは乖離して着実に変わるだろう。

体外受精 In Vitro Fertilization(IVF)

初めは女性の卵管異常に対する治療として登場したが、現在は男女の様々な不妊原因治療に用いられている。

高度な技術が必要・高価・成功率の問題もある。

以前は3、4個の受精卵をいれていたが、多胎妊娠が多いため現在はできるだけ1つにしているとのこと

・1978年にIVF児1号・・・ イギリスのルイーズ・ ブラウン
(ルイーズ自身は2006年に自然分娩で男子出産)

・1983年には日本でも試験管ベビーが誕生。
(国内3例目の女の子は2003年に自然分娩で男出産)

IVF児が子供を作れるとわかってから、安定した技術とみなされるようになる

 

その後、凍結保存、顕微授精( 卵細胞質内精子注入法、ICSI:intracytoplasmic sperm injection) などの技術が開発される。

:2010年調査(世界60ヶ国)
→顕微受精45万件(体外受精の2倍) (NPO国際生殖補助医療モニタリング委員会)

 

日本でも2012年、体外受精の1.5倍の件数(日産婦学会)

:卵子若返り技術、未成熟精子の成長促進技術の研究

日本では、専門施設も増加し、2015年には年間5万1001人が誕生。

→2015年 新生児19人に1 人が体外受精児である。
 2018年 17人に1人

 

2014.6.22 日本産科婦人科学会
→ 事実婚夫婦にも体外受精、卵子・凍結卵子の使用を認める

 

2019年11月には朝日新聞にて凍結受精卵での出産について記事を取り上げている。

東京大などの研究チームが、がん治療を経験した女性を対象としたもので、治療前に凍結した受精卵や卵子で出産した女性が2011-15年に少なくとも29人いたということだ。

 

違う視点では2011年12月には朝日新聞にて「体外受精において人工操作を加えるほど体重が増加する」という記事を出した。

厚生労働省の研究班の調査であり、2007-8年に体外受精で正常な週数で生まれた赤ちゃん約27000人の出生児の体重を調べた。

結果(平均)

新鮮受精卵       :3003g
受精卵を体外で培養   :3025g
受精卵を凍結       :3070g
受精卵を体外で培養、凍結:3108g

人工的な操作が加わるほど重くなることがわかった。

これが将来どのような影響がでてくるか現在調査中とのことである。

代理出産(Surrogacy)

ホストマザー(host mother)[卵子未提供]

体外受精(IVF)技術により、依頼者の受精卵を代理母が妊娠・出産

 

サロゲートマザー(surrogate mother)[卵子提供]

人工授精(AID) 、体外受精(IVF) 技術により、依頼者の精子と代理母の卵子を受精させ、代理母が妊娠・出産

*最近はgestationという言葉を使うこともある

 

これにより生殖医療の新たな問題として家族の定義が変わるという点がある。

以下に例を示す

これは、比較的よく見られるタイプと思われる

IVFの記載は省いている

日本産婦人科学会は左と真ん中の形を承認している。

ただし、真ん中はAIDのみ

 

次にいわゆる代理母のパターンだ。

 

最後に第3者がさらに関わる例である。

図中にも記載しているが、生殖能力はないが、自身の遺伝子に近づけたいために兄弟姉妹に依頼する例もある。

歌手のエルトン・ジョン(男)がパートナー(男)との子供を代理母んお出産によって迎えたことが2010年:第1子、2012年:第2子と報じられたが、これも新しい形と言えよう。

 

一方で日本では2007年にタレントの向井亜紀さんとプロレスラーの高田延彦さんが代理出産を利用したが、裁判問題となったこともある。

生殖医療の新しい問題

配偶者間精子卵子で妻が出産する通常のIVF
→ 精神的・経済的負担(保険外治療のため)

 

・治療一回30~50万(顕微受精+10万)
2004〜 15万円程度の公的助成、子供一人が生まれるまで平均190万かかるとも言われる。

2016〜 助成年齢制限(42歳まで)

 

・妊娠率26%、出生率16%程度

(不妊治療3年以上40%以上)

(ふつうのカップルでも、100個の受精卵のうち、子供として生まれるのは31個程度と言われる。)

 

非配偶者間精子卵子によるAID・IVF

日本 → AIDでの精子提供 → AID児

・精神的問題

・遺伝的問題(遺伝病・近親婚の可能性等)

 (2013 デンマーク精子バンクの問題(神経繊維症))

・法的問題 (親子関係・親を知る子の権利等 )

 

欧米日 → AID・IVFでの精子提供・卵子提供

・上記問題(遺伝上の父)

・遺伝上の母をめぐる同様の問題

・母体・胎児の障害(第三者提供卵子)

 

代理出産:ホストマザー (host mother) の問題

女性の道具化: 身体的負担(妊娠の負担・第三者提供卵子による負担)

・子への愛着(契約違反をする可能性:裁判になる)

・親権

・障害胎児 (依頼者が中絶依頼をして代理母がそれを拒んだりする)

 

ここで「カルバート対ジョンソン事件」を紹介する

ことは1990年カリフォルニア州

カルバート夫妻が子供がつくれなかったため夫婦の受精卵を利用して

1万ドルで代理母(ホストマザー)をジョンソン夫人に依頼した。

すると、ジョンソン夫人は「お腹の子が育つにつれて気が変わった」とし、お腹の子は自分の子だと言い出した。

このときカリフォルニア州では代理母の際に誰が母親か(遺伝的繋がりがあるほうが母親か、産んだ人が母親か)を決めていなかった。

当然裁判となるが、ジョンソン夫人は敗訴した。

しかし、まだまだ州によって対応はまちまちなところが多いそうだ。

 

代理出産:サロゲートマザー(surrogate※ mother)の問題

自分の(依頼者ではなく代理母自身のこと)卵子と依頼者の精子を使用するため、愛情はより深くなる

上記問題+子供は実の子

 

ここで「ベビーM事件」を紹介する

ベビーM事件(人工授精)

ことは1985年 アメリカ

スターン夫人とスターン氏は子供を作れず、夫の精子のみ提供し、1万ドルでホワイトヘッド氏に代理母契約を依頼した。

しかし、ホワイトヘッド氏は生まれた子供に愛情をもってしまい子供を連れて逃げ回った。

ニュージャージー州で地裁に持ち込まれた判決としては

代理母契約は有効であり

父親=スターン氏、母親=スターン夫人

子供はスターン家へ となった。

しかし、ニュージャージー高裁判決では

代理母契約無効

父親=スターン氏、母親=ホワイトヘッド夫人

子供はスターン家へ(子供の最善の利益のために)

*スターン家はお金もあるし文化的にも恵まれていた

 

実際の事件をみると非常に人間身のある生々しい問題である。

 

各国の対応

各国の第三者提供精子・卵子事情

第三者精子提供:

・許容:アメリカ(州による)、ドイツ

・許容(有規制):フランス、イギリス、スペイン、 スウェーデン、スイス (病気など事情による)

・禁止:イタリア (カトリックの影響)

第三者卵子提供

・許容:アメリカ(州による)

・許容(有規制):フランス、イギリス、スペイン、 スウェーデン

・禁止:イタリア

 

各国の代理出産事情
(日本学術会議報告(2008)より)

禁止している国々 (ホストマザー)

ドイツ、イタリア、オーストリア、アメリカの一部 の州では全面禁止

フランスは代理出産契約の無効、斡旋行為の 禁止・処罰を定めている。
スイスは憲法によって禁止。

*子の法的母親: これらの国・州では代理懐胎した代理母とするのが一般的。

 

容認している国々 (ホストマザー)

イギリス、オランダ、ベルギー、カナダ、ハンガリー、フィンランド、オーストラリアの一部の州、ア メリカの半数近い州(判例による場合も含む)、イスラエルなどでは、一定の条件下(無償など) で容認。

アメリカのカリフォルニアはビジネスがあるが他はほとんどボランティア

*子の法的母: アメリカの一部州のように依頼者とする場合やイギリスのように、一旦代理母を母、依頼男性 を父とした上で、裁判所における親決定手続きをへて、依頼者夫婦の実子とする道を用意している場合もある。(生まれた子供が実際は誰の子供かわからない→遺伝子検査をしないとわからない→鑑定の間の法的位置付けを明確にするため)

 

日本の対応

日本には、新しい生殖医療技術の利用に関する公的な規制の枠組みは存在しない。

これまでは日本産科婦人科学会が「会告」という形で規制を掛けてきたが、 除名処分以外ペナルティーはなく、会告を無視する医師もいる。

 

法制化に向けての動きとしては、2003年の生殖補助医療部会の報告書(厚労省)、2008年の日本学術会の報告(厚労省、法務省の依頼)がある

 

2015.6 自民党の専門部会で法案骨子が固まる。
2年かけて国会で議論し議員立法を目指すとのこと。

↓(法整備の流れ)

 

生殖補助医療にかんする厚生労働省(2003.4)

・第三者の無償提供配偶子・受精卵の利用(人 工授精・体外受精)を認める。

・代理出産は禁止

・子供(15才以上)に遺伝上の親を知る権利を認める。

*スウェーデン、オーストラリア(ヴィクトリア州)、スイス:精子提供者の情報を子が知る権利を認める

日本の法務省の姿勢(2003.6)第3者提供精子 → 治療に同意した男性を父とする方向。

 

しかし、この法整備は進まず、その間にも社会の流れは刻々と変化し、国の対応スピードとは乖離していった。

日本における生殖医療のその後

2003 向井亜紀夫妻の代理出産(ホストマザー)

2006 厚労省アンケート

代理出産は・・「認めてよい」(54%)/「利用したい」(9.7%)

2007 向井夫妻の実子届け裁判最高裁敗訴

2008 根津医師が国内代理出産実績公表

2008 厚労省・法務省が諮問した代理出産 (ホストマザー)問題への日本学術会議報告

 

厚労省・法務省が日本学術会議に依頼した代理出産(ホストマザー)に関する報告(2008.4.16)

・原則禁止。ただし、子宮のない女性(先天的・病気による摘出)については、臨床試験として行うことは考慮してよい。

(代理母の母体への影響、子供への影響、成長してからの影響:それを考えるとしばらくは結果がでない)

・海外渡航の場合を含め、母親は代理母とする

・親子関係は特別養子縁組制度などを利用

・生殖補助医療の議論は子供の福祉を最優先とすべき

・生命倫理にかんする公的研究機関の創設
*今まではその都度臨時の委員会などを作っていたが、公の期間を作って専門的にやるということ

 

2008.8 61歳の母親が孫を出産(根津医師:その界隈では有名)

2008〜 代理出産・卵子提供・産み分けツアー
(米国・韓国・インド、タイ)利用者の広がり

2013.5 国内で民間「卵子バンクOD-NET」 スタート
ターナー症などの女性を対象とする。

2015.7 OD-NET で2組の体外受精実施

 

現在

自民党による生殖補助医療関連法案(国会未審議

・不妊の夫婦を対象に

  1. 第3者精子による人工授精や体外受精
  2. 第3者卵子による体外受精
  3. 第3者精子・卵子を体外で受精させた胚(はい)の子宮内への移植を認める

・代理出産(ホストマザー): 国内での代理出産をみとめるかどうかは検討中

・親子関係

  1. 卵子提供で出産した場合、出産した女性を母とする。
  2. 精子提供の場合は依頼した夫が父親となる
  3. 代理出産では母親は代理母とする。 ホストマザータイプ

 

 

日本における生殖医療の課題

1、配偶者間体外受精:

医学的問題(子供の健康)

専門的なカウンセリング(高齢出産の場合、治療をいつ止めるかなど)を行う施設・制度未整備。

 

2、非配偶者間人工授精・体外受精:

医学的問題(子供・母体の健康[特に卵子提供事例])

法的問題(子の親[父・母]、子の親を知る権利)未整備

遺伝的・精神的問題に関するカウンセリング体制未整備

倫理的問題(精子・卵子売買の是非)など

 

3、代理出産:

医学的問題(子供・代理母の健康[特に卵子提供事例])

法的問題(子の親[母])未整備

倫理的問題(女性身体の道具化、貧困層搾取)など

 

4、生殖補助医療を考える恒常的専門組織の整備
例 大統領委員会(米)、ウォーノック委員会・ HFEA(英)

 

 

〈問題を考えるポイント〉

1、医学的安全性大前提

2、精子卵子・女性の体の道具化(ボランティア、ビジネス)について人間の尊厳の観点と、関係者の幸福・利益の観点から考えることも必要

3、ポイント2を、生まれてくる子供の福祉・利益の視点から改めて考える

4、子供を持つことの意味を再考してみる。他の生命倫理の問題と同様、生殖医療は個人の問題にとどまらず、我々はどのような社会を欲するかということを含んでいる。

 

 

日本の今

多くの人が子供を持たなくてもいいと思っている。

未婚も多くなってきている。

少し前まではLGBTの問題もここまで世の中で議論されていなかったし

オープンにもされていなかった。

今議論されていることは始まりに過ぎず

また新たなステージの中では予想もしない問題もおきてくるだろう。

 

おしまい。

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