MRIの小児用説明動画はどれを使用しても同じか?
MRIの小児用説明動画をご存知でしょうか?
いわゆるプレパレーション(子どもの発達に合わせた説明や配慮を、治療や検査を受けるときに行うことで、子どもの恐怖心や不安を最小限にし、子どもの頑張りを引き出すことが目的)のひとつと言われます。
その説明動画も近年では業者も手がけるようになってきました。
こうなると気になるのが『同じ内容なんだろうか?』ということですね。
今回はそのあたりについて焦点をしぼっていきたいと思います。
MRI scan for Children
MRI scan for Children
まずご紹介するのは『MRI scan for Children』というレゴブロックが動いてMRIの検査を説明してくれる動画です。これはなんと個人が作成した動画であり驚愕です。
…実をいうとTwitterで私とFFのKojiroONO氏が作成したものであります。
なので少し私の解説にバイアスがありますが見ていきましょう。
まず子供に馴染みのあるレゴというのが非常に良いです。初っ端から警戒感を解くことができます。
そして簡潔な内容にまとまっています。
実は最も素晴らしいポイントがここで、動画内に最低限の文字はあれど説明の声が一切ないのです。
話を聞き続けられない年齢の子供や、日本人ではない子供でもみることができるというのが重要ポイントです。
数少ない文字も、小さな子供が普段聞き慣れているくらいの擬音で構成されています。
実際、対応に難渋するのは未就学児〜小学低学年であったりするので、作成者が実臨床に即した作成を行っていることが伝わってきます。
動画の中で脳の画像が出てきますが、脳の画像って共感性として高いだろうか?とは思いました。
個人的には、動かない説明の中で「はなまる」を使ったのがとてもよいと思います。
普段家庭で子供の相手をしていると「はなまるをもらう」というのにものすごく価値を感じているようなので効果的だと実感します。
直感として、この動画にフィットするのは【未就学時、小学校低学年】くらいがいいと思われます。
(筆者の感想であり、個人差はあるでしょう)
「えむ・あーる・あい(MRI)のけんさだよ!」
小児MRI検査説明用動画ポケモンバージョン「えむ・あーる・あい(MRI)のけんさだよ!」
*企業作成ということで少し辛口かもしれません
こどもに親しみのあるポケモンをトップ画面にもってきており、警戒感をとくのにとてもいいなと思います。
しかしながら、全体を通して情報量が多いのが残念です。
文字が多く、画面にうつる文字を追ってしまうことで説明が耳に入っていかない気がします。
金属の持ち込みに関しての説明もありますが、親が服装をコントロールできる世代までなら動画内では説明を省くことができるため、子供に見せる動画としては少し踏み込んだ内容に感じました(企業の動画なので入れ込まざるを得なかった可能性か)
また、説明文章に漢字を使っていますが、せめて金属の属は「ぞく」にしてもらいたかったかなと思います。(そのわりに後半の「20分」の分は「ぷん」ででてくる。)
*試しに調べてみたところ、小学5年生修了レベルだそうだ。(*文部科学省学習指導要領 別表 学年別漢字配当表https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/koku/001.htm )
動かないことの説明に、「みかん」をピックアップしたのは素晴らしいと思います。
みかんの断面は各家庭や学校・保育所の給食でも出される可能性が高く見慣れているため
MRI画像 → みかん、だと特別な説明がなくても脳内でつながることができるため、理解がストレスフリーであると思います。
動画の長さに関しては、レゴ動画より少し長めの構成です。
子供の集中力に合わせてチョイスする必要がありそうです。見せる対象者が複数人いた場合、スループットを意識したほうがよいでしょう。
説明技師の笑顔が少ないのは、小児動画としてマイナスかと思います。
動画にでるなら恥を掻き捨てて「おかあさんといっしょ」にでてくるお兄さんの笑顔を練習したほうがよいと感じました。
逆を言えば、この圧に影響されない年齢層になればフィットする動画であるともいえるでしょうか。
実際のMRIの機械が登場するのは良い点です。
また、途中「ベッドも揺れて少し体が震えるよ」という説明があるが素晴らしいと思います。得体のしれないことが起こるとそれだけでパニックになる可能性もありますし、身体影響が軽微なため成人の説明では省かれがちなので、説明を忘れてる施設も少なくはないと思われます。ここまでカバーした説明はなかなかありません。
また、動画の中で「痛くない」とはっきり伝えている点が素晴らしいです。
しかし痛くないという情報が絵では伝わらないため、聞き逃さないよう周囲の助けが必要かなとも思います。
ブザーの実演を行なっていますが、子供ってブザーとか押していいのかなって不安に思いますよね。初めに押して見せてるのはとてもいいです。私自身子供を検査する際は目の前で握らせて音を一度出させてあげるので、実戦に即していると思います。
以上のことから、この動画にフィットするのは【小学生の3年生〜】くらいが妥当に思えます。
(筆者の感想であり、個人差はあるでしょう)
シロクマンのMRIアドベンチャー
シロクマンのMRIアドベンチャー(お子様向けMRI検査アニメーション)
*企業作成ということで少し辛口かもしれません
こどもにも親しみやすいイラストが目を惹きます。
これは実際に受ける子供の目線を想定した構成となっており、検査の詳細を知ってもらうというより、検査に立ち向かえるようになる動画となっています。
そのため、金属の持ち込みなどについては少々説明が不足しているので、保護者が共に見ると完結するわけではなく、きちんと保護者が別枠で説明を聞く必要があります。
動かないことの説明で、子供自身が行いうる行動をしろくまが実際行っているのは子供自身もわかりやすいし、保護者の助けになると感じました。
動画の長さに関しては、レゴ動画と同じくらいです。
実際に我が家の5歳児に見せてみましたが、集中して見切ることができました。
実際のMRIの機械は絵として登場します。
ヘッドコイルをかぶせるのが、あくまで絵なので、実際にかぶった時にびっくりする可能性は残されています。そのあたりは現場でカバーして説明する必要がありそうです。
全体的にポジティブに仕上げて、怖さを軽減するようになっていますが、肝心の狭い感じが伝えきれていないのが残念です。
また、技師がブザーを押すとすぐに駆けつけることは内容に入っていますが、見ている安心感を伝えるには、他の動画よりはパンチが弱いでしょう。
特徴的なのは、「注射をすることもある」と盛り込んでいることです。逆に怖がらせる恐れがあると予想される時は控えたほうがいいですね。
以上のことから、この動画にフィットするのは【未就学児】くらいが妥当に思えます。
(筆者の感想であり、個人差はあるでしょう)
項目比較
両者を項目分けして並べると以下のようにみることができます。
ポケモン | レゴ | シロクマ | |
音の説明 | ◯(おおきい) | ◯(ちいさい) | ◯(中くらい) |
動かない説明 | ◯ | ◯ | ◎ |
臥位視点 | ◯ | ー | ー |
技師が見ているという情報 | ◯ | ◯(ユーモア要素あり) | ー |
ヘッドフォン情報 | ◯ | ◯ | △(一瞬) |
コイルをかぶせる | ◎(コイル内視点あり) | ◯ | △(絵) |
ブザー実演 | ◯ | ー | ー |
ボア内の景色 | ◯ | ー | ー |
長さ | 7:11 | 4:13 | 4:34 |
筆者が思う適応 | 小学3年〜 | 未就学、小学低学年 | 未就学児 |
音の大小に関しては、よりリアルさを大事にするか、説明のときに怖がらせないか、などケースバイケースで使用できるでしょう。
項目がないからといってそれが悪いというわけではなく、利点に働くこともあるので現場で使用の最適化ができれば一番良いだろうと思います。
私の使い方
次は実際に私が動画を使って説明する方法を概説します。使用動画は「MRI scan for Children」を想定します。
*下記のスクリーンショットは制作者の許可を得て取得しています。
1、私の場合は、準備の部屋に患児と親御さんを呼びます。
2、iPadを持って紙芝居のように膝の上に画面を置いてスタートします。このとき親御さんにはきちんと「単なる説明ビデオではなく子供自身が検査に向かう勇気を引き出すことをお手伝いするプレパレーションという手法です」と説明します。こうすると、親自身が協力的に子供を見る体制にもっていってくれることが多いです。
3、最初の冒頭で、「この人が僕だよ。〇〇くんはこの子ってことね」と場面設定を想定しやすいように補足します。
4、ここでは「あとで入るお着替えの部屋がここだよ」と現実とリンクさせます。
5、この場面では「ここがおっきな機械があるところで、頭に蓋をかぶせてかくれんぼをすることもあるよ、穴の中に入ってみるよ」と言います。
6、ここでは「動いちゃうとぶれぶれ〜でよくないんだ」と言います。(動画の文字と違わぬ単語「ぶれぶれ」を使うように気をつけています)
7、次に「ぴたっと止まるときれいにお写真がとれるんだよー」と言います。
8、ここでは「うるさい音を小さくなるように耳に蓋をしてあげるからね」と言います。
9、ここでは「お兄さんたちが〇〇くんががんばっているのをちゃんと見てるからね」と言います。
10、「動いてないからちゃんと写真がとれたねー」と言います。
11、「ここまでくればスーパーミラクルウルトラかっこいいです!今日はこれにチャレンジしてみるからね。」と言います。
これら一連がおおよそ私の説明の仕方です。
個人的には、この後は動画を見てからの心の整理の時間があったほうがいいだろうと思っているので、わざと呼び込むまで少し時間を空けます。(その分早めに見せるよう動きます)
また、制作者のKojiroONO氏の使用法として、動画を見せた後に
「じゃあさ、本物見にいかない?笑 あの扉の向こうに本物(LEGOでないMRI)あるから見に行こうよ!」
KojiroONO氏 インタビュー
というそうです。前向きに進んでくれそうな良い声掛けですね。
患者さんの特性に合わせて、さまざまな話し方があると思いますのでいろんな引き出しを持ちたいですね。
まとめ
プレパレーションというもの自体、私も初めから知っていたわけではなく、この動画の制作者の講演を聞いて初めて知りました。
動画の公開をしてくれたことは、結果的に多くの小児に勇気を与えていますし、僕らもそれを届けられるようにしたいなと思います。
今回、2つの動画を比較してみましたが、どちらが良い悪いとかではないです。選択肢が増えているという現状が素晴らしいのです。
そしてこういう動画がどんどん増えて、子供自身に「どのキャラの動画が見たい?」と能動的に選ばせられるようになる未来がくるといいなと思います。
おわり。